台風の思ひ出
世間はせっかくの三連休なのに台風とは。
九州地方は被害が大きかったようで、
心よりお見舞い申し上げます。
実はワタクシ、台風の被害にあったことがありまして・・・
学生時代、関東に出て来て初めて住んだアパートは、
「6畳+4畳半+トイレ+キッチン+風呂=3万5千円/月」
という、当時にしてもかなりお得なところ。
駅からはちょっと遠かったけど、風呂無し覚悟だったのに
この家賃で風呂付きってのに飛びついた。
川沿いで日当たりも良かったのが気に入った。
実はこの川沿いというのが家賃の秘密というか、
問題だったみたい。
夏も終わりかけたある日の午後のこと。
台風が近づいているようで外はかなりの雨。
夕方から喫茶店のアルバイトなので、ちょっと寝ておこうと
優雅にお昼寝タイム。
(すでに大学にはほとんど行っていない。まだ1年生なのに)
目が覚めてみても、外は雨の音。
こりゃ、自転車じゃバイトに行けないかなと思い、
玄関のドアを開けてみた。
すると、1段高くなっている玄関ギリギリまで、
水がタプタプと来てるじゃありませんか。
まだその時は現実がよく分からず、
「こりゃ、自転車は無理だな」程度の認識。
バイト先の店長に電話して、
「スミマセン、水が溢れてきたんで歩きで行きます。
ちょっと遅れてしまうかもしれません」
というと、店長が、
「お前、家どこだっけ?
~
え?、そこ水没するかも知れないぞ。早く逃げろ!」
「水没」
かなりの緊急キーワードですが、
水没の経験が無いので、その緊急度合いが理解出来ない。
「はあ・・・そうですか」
なんて、のんきな返事をしている間に、足元が揺れてきた。
なんじゃこりゃ?と思って下を見ると、畳が浮いてきている。
「店長、畳が浮いてきましたけど」
「バカ!早く家から出ろ!」
とりあえず、床においてあったものを押入れの上の段に移動。
当時はそれほど家財道具もなかったので、
なんとかすべて押し込んだ。
そうこうしている間に水が足首から膝、
そして腰へとどんどん上がってきた。
こりゃヤバイ、外に逃げようと思ってカッパを着て準備。
部屋の中ですでに腰まで水没しているのに
カッパを着るあたりが、少しパニックになっていたのかも。
何とか玄関のドアを開けて、自転車にまたがった。
自転車は完全に水の中なのに、それにまたがって
逃げようとしているあたりは、完全にパニック状態だったのかも。
当然、水の中で自転車をこげるわけもなく、
自転車での避難は断念。(当たり前)
ふと見ると、玄関が開けっ放し。
戸締りしなきゃと鍵を取り出すも、手が滑って
あわれ鍵はポチャンと水の中へ。
仕方が無いので戸締りも断念。
さて、どうしよう?
そうだ、隣のアイツどうしてるかな?
同じ大学に行ってるという(特に仲がよいわけじゃない)
隣のヤツの玄関を開けて中に入ってみた。
あれ?いないぞ。もうとっくに逃げたか?
部屋の中に入ってみたら、後ろから人の気配が。
押入れの上の段で膝を抱えてた。
泣きそうな顔をして、「もうダメだぁ~」だって。
悪いけど笑っちゃった。
その後も水位は上がり続け、車も完全に水没。
逃げるところも無いので、2階の部屋にお世話になることに。
次の朝、起きてみたらそこは湖。
アパートの周りを消防署(自衛隊かも)のボートが
普通に走ってました。
アパートの階段はさながら船着場。
乾パンと缶詰の五目御飯などの非常食をもらい、
2日ほど避難民生活を送ったのでした。
3日目には随分水もひいて、湖から川くらいになった。
目の前の道路を高そうな鯉が泳いでたっけ。
それを何とか捕まえようとする子供たち。
シュールな世界でした。
完全に水がひいたら、今度は保健所が来て消毒したもんだから
今度は真っ白&消毒臭い。
結局、再びそこに住む気も無くなって、友達の家にしばらく居候。
そこから、ワタクシの引越し癖がスタートしたのでした。
どうやらこの一帯は水が出るので有名なところだったみたい。
誰も教えてくれないんだもんなぁ。
家賃の安さにはこんな理由があったんですね。
安いものには安い理由があるという経済原則と、
パニック時、人間は案外その状況を認めたがらず、
事態を受け入れるのに若干時間がかかるという
非常事態の心理学などを身を持って学んだ貴重な体験でした。